陽だまりの林檎姫
「会うつもりなのか?」

「思えばちゃんと向き合ってお断りしていませんからね。いい機会なんでしょう。」

「危険だ。ここまで追いかけてくる相手が簡単に引くと思うか?」

「だとすれば、どこまで逃げても同じことになりますよ。」

「連れ去られるぞ!!」

半分怒鳴るような強い口調にも栢木は寂しげに微笑んだままだった。

その表情でようやく自分の方が取り乱していたのだと北都は気付かされ、気まずそうに前のめりになっていた体を引く。

「悪い。」

「いいえ。」

純粋に自分の事を心配してくれている。

北都の声が大きくなったのも取り乱したような表情になったのも全て自分の為だと思えば切なくも嬉しかった。

嘆いても仕方ないが、面倒な過去があって今ここにいるのだからと幸せを感じていたい。

「逃げても何も変わらないと思うんです。」

その勇気は北都から貰った。

「どうせなら足掻いてみたいんですよ。北都さんも…そうだったんですよね?」

どうせ死んでしまうのなら、その思いで始めた薬の開発だ。

どうせならという気持ちから進んだ先には予想もしない未来が待っていた。

かつて北都が自分の未来を切り開いたのなら栢木もそれを倣いたい。

「だから、逃げません。」

本当なら強がってずっと笑っていたかった。

しかし押し寄せてくる恐怖と不安が強すぎて言葉にするだけで精一杯だ。

口元に力を入れても声は震え、目には涙が浮かんでいた。

怖いけどここにいたいから動きたくない。

未来に光は感じられないけどその可能性を信じてみたい。
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