吉田は猫である。
私が猫の首を撫でながら聞くと、吉田はぐっと黙ってしまった。

にゃあ、と鳴いた猫はこの状況のことなどさっぱり分かっていない様子だ。


「…拾ったんです」


吉田はぽつりと答えた。


「だけど、うちでは飼えないし」


「あーそっか、吉田の家ってマンションだったっけ」


吉田が暮らす家はペットを飼うことが許されていないマンションだ。

吉田がこの猫と暮らすためには家をでなければならない。


「なら、誰か飼ってくれそうな人を探せばよかったのに」


私が言った言葉に吉田は「…それは、嫌です」と答えた。


「だって、この猫を誰かに渡すなんてそんなの、嫌です」


「吉田…」


吉田は少し寂しそうな苦しそうな顔をしていた。

私の言葉で吉田は表情を戻した。


なんで、隠すの。


「先輩、そんな顔しないで」


吉田はふっと笑った。

その笑顔は少し痛々しくて胸がざわついた。

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