吉田は猫である。
今、何か聞こえたような。

少し耳を澄ませてみるけど、何も聞こえない。

気のせいだったのか。

そしてまた歩き出そうとしたとき、また聞こえた。

微かな音。

可愛い音。

それはそう、例えるなら。


「猫の、鳴き声?」


そう口に出して、すぐに自分の考えを打ち消す。

だってここは高校だ。

高校の敷地内に猫なんているはずがない。

そう思おうとしたけど、また聞こえた。

にゃあ、と可愛い小さな声。

紛れ込んでいるのだろうか。

その声が聞こえた方を目指して私は歩き出した。

そろり、そろり。

足音を立てないようにゆっくりと慎重に足を運ぶ。

進めば進むほど、猫の声は大きくなっていく。

しかし猫の声だけじゃなかった。


「よしよし」


誰かの声がした。

人間の声。

優しくて温かい声。

この声を、どこかで聞いたことがある。

この声の持ち主を、私は知っている。


この声は、もしかして。


「吉田?」


答えに行きついたとき、私はその人物の姿を捉えた。

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