漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
思わずエルミドの頬を叩いた。
王太子に狼藉をはたらくことは『聖乙女』であっても許されない。だが、あまりにも痛烈な侮辱だったのだ。

国と民を顧みなかったことなど、一度たりとてない。

将来はファシアスと一緒に国のために生きたいと誓った10歳の頃、突然目覚めた『聖乙女』の力。
喜び、でもおびえ、それでも国と民に自らを捧げようと誓った。
その覚悟は偽りでもなければ揺らぐこともない。


ただ―――どうしても―――心細さと寂しさだけは、ぬぐえなかった。


大役を背負う不安を解かってくれる存在が欲しかった。
急に訪れた孤独をほんのひと時でも埋めてくれる友達―――ファシアスにそばにいて欲しかった…。ただ、それだけ…。


(ほんのちょっとのお願いだった…。10歳の子供がどうしてもと望んだ、わがままだった…。でも…『聖乙女』にとっては、大罪だったの…?)


ぐちゃぐちゃに心をかき乱されそうになりながらも、アンバーは涙をこらえエルミドを見据えた。しかし酷薄とした表情は、愉快そうに歪むだけだった。
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