お前のこと、誰にも渡さないって決めた。



香音ちゃんが、背伸びをして、みっくんの耳元でなにか言う。


すると、みっくんが自分の耳たぶに触れて────





「…………ぅ……っ」




昔からよく知るクセに、泣きそうになる。




くるしくて、どうしようもないのに、

みっくん達が向こうの角を曲がるまで、その背中から目が離せなかった。




『みっくん!』



って呼びかけられたら、

その緩いシャツの裾を引っ張って、



『行かないで』



って引き留められたら、よかったのに。




肝心なところで強気になれない私は、
みっくんに振り払われるのが怖くて
手を伸ばせなかった。





「………っ、ふ、」





みっくんの姿が見えなくなって。


ぽたり、と頬を伝う涙。




それを皮切りに、堪えていた涙がどっと溢れて粒になって、ぼたぼたと落ちていく。





「ぅ…………ぁ………っ」





声を押し殺して、零れていく雫を目で追った。




ねぇ、


置いていかないで。







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