ただ、そばにいて。
「お友達に戻りましょう」

 瑞希はビジネスライクに告げた。
 お友達だったことなど一度もない。定義もよくわからない。
 けれどいまはそれが適切なセリフのような気がした。

「お友達、ね」

 鷹森は顎の下で両方の指を組み、愉快そうに笑った。

「では、新しい関係のスタートを祝して」

 瑞希はワイングラスを掲げる。
 鷹森は口の端をあげ、それにならった。


 ふたりでグラスを合わせて乾杯した。
 そのあとは、まるでさっきの告白などなかったように、仕事の話をしながら食事を楽しんだ。

 静かに思えた店内には、いつのまにかざわめきが戻っていた。



 店を出ると、酔った鷹森に肩を引き寄せられた。

「今日は帰ります」

 笑いながら、さりげなく腕から逃れる。
 すると鷹森は、「じゃぁ、また今度」とあっさり手をひっこめた。

 また今度、か。
 鷹森にとって瑞希の存在は、いまも昔も〝友達〟に変わりないのだ。

 悪い男。
 でも、そういうところが好きだった。
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