左手にハートを重ねて
「……結婚してからも、ときどき会わない?」

 小さな声で、耳もとで囁かれた。
 アルコールの入った目は少し濁っていて、妖しい光を放っている。

「やだ」
「つまんねー女」

 そう毒づきながらも、森崎は握った手を離さない。

 やなかんじ。
 でもこの男は、昔からこうだった。
 10年前の、私にとっての黒歴史。

 中学を卒業するときに告白して、付き合うことになったのはいいけれど、こいつには他にも女がいた。
 それも、二股どころの騒ぎではない。
 知っているだけでも、私のほかに3人。
 体だけの遊びで付き合うような女だったら、もっと大勢いただろう。

 それを知った私は、森崎の家の前で修羅場を演じた。
 そんな私と森崎を一喝したのが、のちに森崎の彼女となる女性だった。
 負けた、と思った。

 でも、結局別れちゃったんだ。
 まぁ、それはそれで、賢い選択だったとは思うけれど。
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