エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「そんな! 大丈夫ですよ」

「いいから」

 強めの口調で言われたけれど、私は素直に受け取ることができない。こういうとき、どうすればいいのか、やっぱり分からない。

 こういうのって普通なんだろうか。もしかして思ったより遅くなってしまった責任を感じさせてしまったんだろうか。でも終電まではまだあるし……。

「俺が心配だから言ってるの」

 私の心の葛藤を読み取ったかのように倉木さんが告げた。その言葉に私の心が波立つ。これに深い意味はなくて、倉木さんが紳士だから言ってくれているだけだ。

「分かりました、ちゃんとタクシーで帰ります。でも、お金は自分で払いますから」

「いいよ。本当は俺が送らないといけないのに」

「いえ。だってこれは仕事でのお付き合いですから。そこまで倉木さんに気を遣っていただかなくても」

 さすがに、タクシー代まで出してもらういわれはない。なんたってこれは、仕事での付き合いなのだから。そう思って口にした言葉は最後まで言わせてもらえなかった。

 阻むかのように、倉木さんが額と額が触れそうな距離まで顔を近づけてきたからだ。

「彼氏の言うこと、おとなしく聞いてくれないの?」

 これでもかというくらい、目を見開く。そこには、いつもの茶目っ気など微塵もなく、本気で懇願するような倉木さんがいた。そんな顔で、そんな言い方はずるい。

「……分かり、ました」

 おかげで私は、拒否できず、おとなしく倉木さんの言うことを聞くことにした。

「うん、いい子」

 倉木さんがなにげなく私の頭に触れる。これで勘違いするなと言う方が無理だ。何人もの女性が本気になって、泣いてきたのが分かる気がする。

 特別だと錯覚させられて、本当に特別になりたくなる。それはけっして望んではいけないことなのに。
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