エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 家に帰ってからも、私はしばらく着替えることなく、倉木さんとのやり取りを振り返っていた。初めてのフィットネスジム、初めての会員制ラウンジ、そして初めて……。

 エレベーターの中での出来事を思い出して、とっさに額と頬に触れた。リアルに唇の柔らかい感触が蘇って、叫びたくなる衝動を必死に抑える。

 頬と額に触れるだけの優しいキス。たったそれだけ。べつに唇を重ねたわけでもない。ほんの戯れで片付きそうなささいな接触。それなのに私は、さっきから思い出すだけで胸が潰れそうに苦しい。

 ようやくその理由が分かった。私はきっと倉木さんのことを好きになってしまった。けっして叶わない恋なのに、自分ではどうすることもできない。

 そうか、人を好きになるってこんな気持ちなんだ。

 自覚した途端に、泣きそうになる。自分の愚かさ加減にほとほと嫌気が差して、気持ちが沈んでいく。そのとき、鞄に入れっぱなしの携帯が音を立てたので私は急いでディスプレイを確認した。

 まさか、という気持ちは、すぐに打ち消される。私はため息ひとつついて通話ボタンを押した。

『もしもし、美緒? 元気?』

「うん」

『あなた、来週末のお見合いの服、ちゃんと用意してるの? いつも寒々しい色ばかり着て、当日はもっと女の子らしく華やかなものにしなさい、いいわね』

 いきなり本題に入り、一方的に言いたいことを告げられ、私は躊躇いがちに返事をした。相変わらず、こちらの近況は興味はないようだ。そして電話で顔を見えないのをいいことに、私はこわごわと申し出た。
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