ミツバチのアンモラル
 
 
「なんでっ……華乃はもう全部知ったんだろう?」


「うん。全部じゃないけど、前から知ってた」


「っ」


「けど、行動は知っていても、動機は知らない。智也や他の人が言っていても本当のことは違うかもしれない。――だから、もう、圭くんから、全部教えてほしい」


怯えるような圭くんが不憫だと感じた。私よりも歳上な男の人だけれど可愛くて愛しくて抱きしめたくなる。代わりに、精一杯の慈愛よ伝われと、声に全てを込めた。




「華乃…………僕は、華乃がなにより一番大切なんだ」


「うん。私も」


伝われ、伝われ。
私の気持ちが伝わりますように。


そうして、圭くんの口から、全ては教えられる。
いつもの穏やかな王子様に戻ることはなく、拙く語られる様は、やはり愛おしかった。


「華乃が、大切じゃなかったときなんて、あるわけがない。華乃が僕に向けてくれる言葉も態度も感情も、嬉しくないものなんてひとつもなかった。ずっと愛しい存在だよ。華乃が望むものは、全て叶えてあげたかった。……でも、恋愛感情だけは……」


ないなと思った。それは、圭くん自身も今ではどうしてそう行き着いたのかわからないらしい。
世間体、倫理観、道徳心、からだったかもしれない。当然だ、大切な妹なのだから。
ただ単にからかわれる原因を思春期に排除したかっただけかもしれないけれど。


けれども、私がなによりも大切なのは一向に変化の兆しがない。もしかしたら恋愛の意味で私を想っている? いや。それはないと結論は出たじゃないか。
圭くんはずっと悩んで、矛盾を払拭する為に恋をすることにした。


「……でも、上手くいくことはなかった。……当然だ。僕はなによりも華乃が大切で、……華乃が、好きだったんだから」


認めざるを得ないほどの出来事があったのは、私の高校卒業式前日。


「最低なしゅんかんだろう……?」


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