ミツバチのアンモラル
「華乃が、駅にいた僕のところに走ってきて、顔を真っ赤にして約束をしに来た――ああ。可愛いなと抱きしめたくなって、ようやく答えに辿り着いた。
……華乃が交差点を渡る途中で僕のほうに振り向いて泣きそうな顔をしたとき、愛しくて仕方がなくなって、認めた。華乃が好きだと。愛していると。…………でも直後にあんなことに……。華乃が振り向いて立ち止まったのは、待ち合わせていた相手が僕の名前を大きく呼んだからだ。
僕の……せいで、華乃は事故に遭って、その瞬間に華乃を好きだと思うなんて最低だ……ショックを受けた顔にさえ見惚れたりもした…………僕がもっと……もう何年も前からきっとそうだっただろうに、解るのが遅すぎたせいでこんなことに……。
智也に責められたことは当然だ。華乃に近付くなと言われるのも。でもそんなの不可能で……華乃から離れることは僕には……。
華乃が事故のことで責めてでもくれたら違ったかもしれない。けど、華乃はその記憶をなくしていて、僕はそれに安堵をしてしまって激しく後悔したけど、まだ一緒に居られることを喜んだ。……混乱したまま華乃につきまとってとても迷惑をかけた。ごめん……華乃。
華乃に僕の行動を諭されてようやくそのときの異常さに気づいた。とても恥じて、だから、もうやめようと思った。
……けれど、やっぱり華乃から離れることは無理だった。
華乃を、あんな目に遭わせた僕の感情などなかったことにしてしまえば可能かもしれないと考えたそれからは……華乃を笑顔に出来ることも増えて――ああ、これでいいんだと思った」