俺様社長と極甘オフィス
「藤野! すごい! やったな! 本当に藤野はすごい」

 今にも飛び跳ねそうな勢いだ。いつもならさっさと離れるように言うところだが、今の私は社長の抱擁を受け入れた。

 本当に嬉しいのが伝わってくるし、私だって嬉しい。ずっとこのために色々と頑張ってきたのだ。これで、このビルを他の人に委ねることもなくなる。私も社長の腕の中で自然と笑顔になった。

「おや、お邪魔だったかな?」

 ふと声がかかり、私は脊髄反射で押しのけるようにして社長から距離をとった。そこにはコーヒーを運んできてくれた田中さんの姿があり、私がなにか取り繕うとする前に田中さんの目も大きく見開かれた。

「まさか、開けられたのかい?」

「はい、藤野のおかげなんです。それにしても、パスワードはなんだったんだ?」

「それは私も聞きたいね」

 社長と田中さんの視線を同時に引き受け、私はゆっくりと口を開いた。

「“ごうがしゃ”です」

「ごうがしゃ?」

 社長が顔をしかめて訊き返してきた。予想していた言葉とはまったく違っていたのだろう。田中さんもぽかんと口を開けている。なので、私は求められる前に説明することにした。
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