愛し君に花の名を捧ぐ
くるりと首を巡らせた方向には、裙の裾をたくし上げ、歩揺を鳴らしながら息を切らして駆けてくるリーリュアの姿があった。
「申し訳ありません!」
到着するなり、倒れ込むように跪いて頭を下げるリーリュアの前に、呆れながら苑輝が片膝をつく。
「颯璉は、そなたに謝罪の作法ばかり教えたようだ」
「そんなことは。でもっ! あのような無礼を……」
「あの程度で腹を立てていては、この皇宮には人がいなくなってしまう。なにせ、不敬な大熊や口煩い古狐の住処だからな。それに、万一責任をというのなら、彼の者の主人である剛燕をも咎めなくてはならなくなるが?」
「それはダメです!」
あげられたリーリュアの顔に涙の跡をみつけて、苑輝は眉を曇らせた。
「旧知の身を案じ、また泣いていたのか。それとも、ほかになにか?」
頬に触れようとするとびくっと身を引かれ、苑輝の手が空を切る。リーリュアが袖でゴシゴシと顔を擦ってしまったので、さらに赤みが広がってしまった。
「なんでもありません! 走ったので、目にゴミが入ったのです」
「……ならばよい。気をつけなさい」
素直に頷いたのを確認して苑輝は腰を上げる。
「屋根の件だが……、どうした?」
指示を出そうと見やれば、剛燕はふたりに背を向け広い肩を小刻みに揺らしていた。隠しきれずに笑い声も漏れている。
「いえ、どうぞお気になさらず。屋根ですね。ええ、ちゃんと伝えておきます。ご安心を」
ひとしきり笑って気が済んだのか真顔に戻った剛燕は、雑草の取り除かれた屋根とキールの消えた木立を交互に眺めて、ヒゲの生えた顎を撫でていた。
「申し訳ありません!」
到着するなり、倒れ込むように跪いて頭を下げるリーリュアの前に、呆れながら苑輝が片膝をつく。
「颯璉は、そなたに謝罪の作法ばかり教えたようだ」
「そんなことは。でもっ! あのような無礼を……」
「あの程度で腹を立てていては、この皇宮には人がいなくなってしまう。なにせ、不敬な大熊や口煩い古狐の住処だからな。それに、万一責任をというのなら、彼の者の主人である剛燕をも咎めなくてはならなくなるが?」
「それはダメです!」
あげられたリーリュアの顔に涙の跡をみつけて、苑輝は眉を曇らせた。
「旧知の身を案じ、また泣いていたのか。それとも、ほかになにか?」
頬に触れようとするとびくっと身を引かれ、苑輝の手が空を切る。リーリュアが袖でゴシゴシと顔を擦ってしまったので、さらに赤みが広がってしまった。
「なんでもありません! 走ったので、目にゴミが入ったのです」
「……ならばよい。気をつけなさい」
素直に頷いたのを確認して苑輝は腰を上げる。
「屋根の件だが……、どうした?」
指示を出そうと見やれば、剛燕はふたりに背を向け広い肩を小刻みに揺らしていた。隠しきれずに笑い声も漏れている。
「いえ、どうぞお気になさらず。屋根ですね。ええ、ちゃんと伝えておきます。ご安心を」
ひとしきり笑って気が済んだのか真顔に戻った剛燕は、雑草の取り除かれた屋根とキールの消えた木立を交互に眺めて、ヒゲの生えた顎を撫でていた。