世子様に見初められて~十年越しの恋慕
ヘスはヒョク以外をその場に残し、敷地内に足を踏み入れた。
「誰かおらぬか」
ヒョクが母屋の戸を少し開け、中の様子を窺う。
けれど、返答も無ければ気配も無い。
「世子様、不在のようです」
ヘスは一歩足を踏み入れ、室内の様子を窺う。
そこはどこにでもあるような部屋で、変わった物など一つも置かれていない。
ふと視線の先に留まった茶器に手を伸ばした、その時。
「何者だ」
背後から男の声がした。
ヒョクは瞬時にヘスと男の間に立ち警戒すると、男はヒョクの陰に隠れるようにして立つヘスを見据えた。
「ここは、世子様が来るような場所ではありませぬ」
「ッ?!」
男は一瞬でヘスが世子だと気付いた。
ヒョクは只者ではない男に対し、剣を抜こうと手を掛けると。
「切りたければ切るがよい」
殺気立つヒョクに対し、男は感情を持たぬかのように何事もなかったかのように手にしてる笊を棚に置いた。
「ヒョク」
「ですが……」
ヘスが目配せし、外で待機するように指示すると、ヒョクは納得出来ぬ様子。
だが、ヘスが再度指示を出すと、渋々一礼し、その場を後にした。
「部下が無礼を働きまして……」
男はヘスが居ることすら無視して着替えを始めた。
そんな男に対して、一国の王子が深々と頭を下げると、男はそんなヘスを見据え一言。
「クスから何を聞いたかは知らぬが、お引き取りを」
国王である父親を『クス』と呼び捨てる行為は極刑に値する。
けれど、ヘスは事前に聞かされていたこともあり、驚く事は無かった。
目の前の男はチュ・カンジンと言い、康宗(イ・クス)の幼馴染とも言える人物なのだ。