世子様に見初められて~十年越しの恋慕


「相変わらず狡猾な男だな」

クスッと微笑むカンジン。
国王を狡猾な男呼ばわりしては、本来であればその場で斬首ものだが、二人の間に目には見えぬ強い絆があるという証拠。

カンジンは腰を下ろし、ヘスに対して茶を淹れ始めた。

干柿効果とも言えるであろう作戦は功を奏したようだ。
カンジンはヘスが持参した干柿を一口食べ、目尻を下げた。

「旨い」

先ほどまでの刺々しい雰囲気とは打って変わり、カンジンは柔和な表情で茶を口にした。
干柿が大好物だとは聞いていたが、大の男がこれほどまでに目尻を下げるものなのかと、ヘスは少々驚きを隠せずにいると、カンジンは干柿が亡き母の思い出の味なのだと教えてくれた。

誰にでも一つや二つ言葉に出来ぬほどの想いがある。
父にもあるように、目の前のこの男にもあるのだ。
すると、そんなヘスの心を見透かしたかのようにカンジンは二つ目の干柿を頬張り、口を開いた。

「私に何をお望みなのでしょうか?」

裏表のない男。
遠回しに言葉を紡いだ所で全て見透かされてしまうだろう。

ヘスは一呼吸置いてから言葉を発した。

「櫛(ビッ)を彫って頂きたいのです」
「……櫛、ですか」
「はい」

朝鮮では、櫛を贈るという事は健康と美を想う贈り物とされている。
それは、世子が想いを寄せる女人がいるという事を示すことでもある。

「わざわざこんな山奥にいらしたという事は、贈り主は………」

カンジンは言葉を濁した。
その先を口にせずも理解出来る。
世子嬪ではないのですね、と言いたいことが。

ヘスは決して口に出来ぬような秘めた想いをカンジンに打ち明けた。
それはこの男に対して、心を開かねば彫って貰えぬと心得ていたからだ。


< 142 / 230 >

この作品をシェア

pagetop