冷徹ドクター 秘密の独占愛
遠い記憶を辿り、学生だった頃の自分を振り返る。
資格を取って手に職をつけた方が、将来結婚してまた働きたい時にきっと役に立つ。
今はまだわからなくても、資格を持っていて良かったって絶対に思うから。
高校三年生の時、進路に悩んでいた私に母親が歯科衛生士学校への進学を勧めてきた。
そんな話にいつものように流されて決めた、衛生士学校への入学。
でも、学校での勉強も、厳しい実習も楽しかった。
きっかけは流されて決めた道だけど、いつしかそんなこと忘れるくらい一生懸命になれていた。
「慣れていない実習生につかれて、煙たい目で見ていたのに、そんなのもお構いなしに真剣で……他のドクターみたいに愛想もない俺に、怯まず質問もしてきたり」
表情は見えないからわからない。
でも、律己先生が微かにフッと笑ったような気配を感じる。
そこまで詳細に話されて、記憶の奥深くに仕舞ってあった日歯での実習のことが少しずつ蘇り始める。
「もしかして……八番をエキストして、六番に移植したあれって……」
「……覚えてたか」
しっかりと私を抱き締めていた腕が緩むと、見せてくれた律己先生の顔は穏やかな微笑を浮かべていた。