冷徹ドクター 秘密の独占愛


「もうベテランの衛生士さんだけど、うちでのやり方はみんなが教えてあげてちょうだいね」


奥さんはスタッフ一人ずつを紹介すると、そう言って私のことをお願いしてくれる。

「よろしくお願いします」とそれぞれが口にし、再び仕事の続きをしに戻っていった。


年数だけで“ベテラン”なんて紹介されてしまったけど、中身が伴っていない自覚がある私は、心の中で「ハードルを上げないでくれ!」と叫んでいた。


「女の子たちはこんな感じで、あとドクターだけど、常勤の先生が二人と、あとは曜日ごとに大学からバイトの先生が来ているから」

「ドクター多いんですね……」

「だいたい三、四人でやっている感じになるわね。あ、あと……」

「……?」

「今日はいないけど、副院長がいるわ」

「副院長、先生?」

「息子なんだけどね。院長は最近は自分の患者さんしか診なくなったから、患者さん全般診てるのは副院長になるのよ」

「そうなんですか……」

「副院長が衛生士さんの補助を一番必要とするから、よく勉強して、頑張って」

「はい……」


勉強して頑張って、なんと言われると、いきなり不安になってしまう。

とりあえず今日はいないみたいだけど、私に副院長のアシストが務まるのだろうか……。


「じゃあ、診療室内、色々見て回ってちょうだい。わからないことがあればスタッフに聞いてみてね」

「わかりました。ありがとうございます」


去って行く奥さんに頭を下げ、早速用意してきたメモ帳とペンを手にする。

機材や材料を見て回りながら片っ端からメモを取っていった。


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