冷徹ドクター 秘密の独占愛
「診療提供書を、院長入れ忘れたとかって……」
「そうか、わざわざ悪かった。親父の最近の忘れっぽさは心配になるな」
手渡した封筒から早速中身を取り出しながら、律己先生は「認知症の始まりじゃなきゃいいが……」なんて独り言のように呟く。
それに即反応したのは、律己先生の隣にいる田島先生だった。
「やめなよー! 東條先生、まだまだ現役退かないでしょ」
律己先生の腕を軽く叩きながら、親しい口調で笑う田島先生に、チクリと胸の辺りを針で突かれたような痛みが走る。
律己先生はそれに対して特にリアクションを取らなかったけど、何だかその場に居続けることが耐えられない気分にさせられた。
「では、私はこれで。病院に戻ります」
居たたまれず、頭を下げてくるりと背を向ける。
「浅木?」
背後から律己先生の声が掛けられると、無意識に足は小走りになっていた。
「おい、千紗!」
逃げるように去っていく背中に、慎の声が続いて聞こえてくる。
下の名前で呼び止めてきた慎に、心の中で「あのバカ!」と毒づいた。