冷徹ドクター 秘密の独占愛
「浅木さんは、どうしてうちの医院に?」
コンビニへ向かう道すがら、中田さんがそんな質問をしてきた。
お昼、何食べようなんて考えていた頭がハッとする。
「あー……働いてたとこが医院閉めることになって、求人見てたら『急募!』なんて書いてあったので電話してみたんですけど……何か、とんとん拍子で決まった感じで」
「そうだったんですねー。うち、衛生士さん辞めちゃいましたからね……」
「あの……どうして辞めちゃったんですかね?」
半日働いてみての様子、心配していた女子間のいざこざはどうやら無さそうに見える。
じゃあ他に、急に辞める理由といったら何だろう?
仕事をしながら頭の隅でそんなことを考えていた。
「律己(りつき)先生です。律己先生が嫌で辞めちゃったんですよ」
「律己、先生?」
「あぁ、副院長のことです」
「副院長って、今日はいない、院長の息子さんっていう」
「はい」
思わぬ答えが返ってきた。
まだ会ったことのない、その副院長とやらのせいで昨日までいた衛生士さんは辞めてしまったらしい。
「よく言えば厳しいって言うのかもしれないですけど、あれはいびりって言ってもいいくらいですね」
「えっ……いびり?」
「言葉はきついし、機嫌損ねると最悪ですよ。律己先生が嫌で辞めた人、もう何人目だよって感じで。入ってもすぐ辞めちゃう人ばっかりなんです」