冷徹ドクター 秘密の独占愛
「律己先生っ――!」
音につられて振り返った先、目にしたものに声を上げていた。
立ち上がろうと脚を立てる津田さんの地面につく手元で、キラリと反射する鋭利な刃物。
信じられない光景を目の当たりにして、足が竦んでしまう。
私の声に津田さんに振り向いた律己先生は、その物騒な事態にらしくもなく舌打ちする。
咄嗟の判断か私を自分の背後へと突き飛ばした。
勢いよく立ち上がった津田さんが、握り締めた刃物を振り上げ、奇声を上げて突進してくる。
「千紗っ、逃げろ!」
そう言われても一人で逃げ出すことなんてできるはずもなく、静止の魔法でもかけられてしまったかのようにその場に立ち尽くす。
滅茶苦茶に刃物を振り回す津田さんを取り押さえた律己先生は、掴んだ腕を捻り上げる。
カチャンと地面に落下した刃物を、即座に足で蹴って遠くへ飛ばした。
「おいっ、何をしている!」
そんな時、制服を着た警備員と思われる人たちが二人、エントランススペースへと駆け込んできた。
一斉に律己先生が捕まえた津田さんへと飛び掛かる。
「放せっ! くそぉぉぉ!」
警備員二人に馬乗りにされ、津田さんの必死な叫び声が辺りに響き渡った。