冷徹ドクター 秘密の独占愛
「浅木さんには、まだまだうちで頑張ってもらいたいと思っていた。けれど、そういうことなら、私にも責任がある。だから、無理に引き止めることはできない」
本心は、まだまだここで頑張りたかった。
院長も奥さんも、こんなに温かい。
先生たちやスタッフのみんなともやっと打ち解けて、毎日仕事をするのが楽しかった。
そして、律己先生の右腕となって、まだまだ自分の仕事の可能性を知りたかった。
自分でついた嘘なのに、息苦しくて堪らない。
知らぬ間に流れ出てしまった涙を慌てて手で押さえる。
「浅木さん……」
涙を拭う私を目に、奥さんもつられたように表情を歪める。
「すみません」と次々と落ちる涙を手で隠すと、揺れる視界で院長がいつもの笑顔を見せた。
「ご実家が落ち着いたら、またいつでもうちに戻ってくればいい。待っているから」
院長の言葉にうんうんと首を縦に振りながら、最後に震える声をなんとか絞り出した。
「あの……このことは、皆にはまだ黙っていてほしいんです。特に、律己先生には……」
ここを離れてから、私が急遽実家に帰ったということに仕立て上げたかった。
辞めるということで、職場に余計な波風を立てたくない。
それにこれ以上、平気な顔をして嘘を貫き通す自信もなかった。
私の最後のわがままに、二人は切なげな様子で了承をしてくれた。
話し合いが終わって診療室に戻っても、胸の辺りを圧迫している何かはいつまでたってもスッキリしなかった。
いつも通りの変わらぬ仕事一つ一つが、かけがいのないものに思えて苦しかった。