冷徹ドクター 秘密の独占愛
「お知り合い……なんですか?」
思わぬ名前が出されて、ドクンと心臓が音を立てていた。
律己先生を……知ってる?
「あぁ、大学の先輩なんだ。ずいぶんお世話になったよ」
はははっと笑って、小山先生はうねる黒髪の頭をかく。
「そう、だったんですか……」
この業界、狭いというのはよく知っている。
だけど、地元に帰ってきて、まさか律己先生の後輩の病院に勤めてしまうことになるなんて思いもしなかった。
そんな話を聞いてしまい、途端に居心地の悪さを感じる。
後輩だという小山先生から、律己先生に私がやって来たことが伝わったりしないだろうか。
母親の具合が悪くて実家に帰省したという話になっているのに、黙って実家の側で働き始めたなんてわかってしまったら、どんな風に思われてしまうだろう。
「あの……私がここで働くことは――」
できれば内密にお願いしたいです。
そう言おうとしたタイミングで入り口のドアのベルが鳴った。
「あっ、できたら東條先生には黙っていてもらいたくて」
そこまで言った時だった。
後方で扉の開く音がし、話していた小山先生の顔が「あっ」とでも声を漏らしたように驚いた表情になる。
何……?
振り返ってその先を見て、心臓が止まってしまったかと疑った。