冷徹ドクター 秘密の独占愛



その後は、今思い出しても華世と同じく胃が痛くなる。


カラオケの最中、自宅からかかってきた母親からの電話で真っ青になったのは、七年も前のことでもはっきりと覚えている。


翌日学校に登校すれば、衛生士兼教員である先生たちに白い目で見られ、華世と別々で校長室に呼び出された。


歯科医である女医の校長は、日歯出身の権威ある歯学博士だった。

校長の両親が開校したという私たちの衛生士学校は、まだ歯科衛生士という資格者が少ない時代からある学校だと聞かされていた。

礼儀はもちろん、技術面でも優秀な衛生士を輩出していると名高い学校で、歯科業界では有名な衛生士学校。

そんな学校の名を守ってきた校長は、私たちの悪事に凄まじくご立腹だった。


もちろん、お叱りを受けることはわかっていたから、華世と体調不良で帰ったということはしっかりと口裏を合わせた。

だけど、校長は厳しい表情を一切崩さず言った。


「お辞めになりますか」と。


あの瞬間の校長の冗談抜きの雰囲気は今でも忘れられない。


体調不良にしろ何にしろ、直接断りも入れずに姿をくらますなど、非常識にも程がある。

前代未聞だと、厳しく叱られた。


ここまできて、もしかしたら退学を覚悟しなければならないかもしれない。

あのとき初めて、とんでもないことをしてしまったのだと、やっと事の重大さに気付かされた。


「あのときも言ったけどさ、千紗も華世子がぶっ飛んだこと言い出したら止めないとダメだよ」


凛の正統派な意見に、華世が「ぶっ飛んだって何よ?!」と反論する。

すると黙って聞いていた多恵が私を見つめ、仕方なさそうに笑った。


「まぁ、千紗は昔から流されやすいからね。華世子の勢いに負けたんでしょ」

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