冷徹ドクター 秘密の独占愛



来院ラッシュが過ぎ去った、午前十一時前。

診療室では牧先生と鮎川先生が治療中で、そこに森さんと谷口さんがアシストでついている。

受付は今日も下村さんで、中田さんはさっき控え室の掃除をすると診療室を出ていったところだ。

私はというと、一人消毒室の奥で担当した患者さんの実地指導をカルテに記入している。


関さん、フロスちゃんと使えるかな……?

もし使いづらいなら、何か別の清掃方法提案しないとだよね。


さっき私を指名したいと言ってくれた関さんの指導記録を書き込みながら、口腔内を思い出す。

ちょうど顔を上げた目の前、ホワイトボードにマグネットで貼られたチラシに目が留まった。


「痛くない、柔らかめワンタフトブラシ……」


材料屋さんが貼っていった新商品のチラシだろうか。

矯正治療なんかをしている患者さんが装置部分を磨くのに使うワンタフトブラシ。

ヘッドが普通の歯ブラシに比べ小さいもので、生えかけの親知らずの清掃なんかにも用いられる。

だけど、毛が硬い製品が主流で使って痛いと訴える患者さんもいたりして、私はあまり指導には使わない。

でも、柔らかいならいいかも。


「こんにちはー、デンタルライフです」

「お世話様でーす」

「……えっ、千紗?」


< 76 / 278 >

この作品をシェア

pagetop