冷徹ドクター 秘密の独占愛
彼の名は、市ノ瀬 慎(いちのせ しん)。
歯科機器や材料を歯科医院に販売する会社『デンタルライフ株式会社』の営業マン。
そして、以前付き合っていた一つ歳上の元カレだ。
慎との出会いは、塚田先生のところで働いている頃のこと。
私がちょうど二十六歳の誕生日を迎えたあたり、それまで来ていた営業さんが担当地域が変わり、引き継いで来たのが慎だった。
それまで来ていた年配の営業さんと打って変わり、若くてフレッシュな営業マン。
篠田さんとその話題で盛り上がったのは記憶に新しい。
色素の薄いゆるふわな短髪をアップバングにして、営業マンらしいこんがりと焼けた肌。
身長も平均よりは高く、顔もなかなか精悍な顔立ちで、イケメンと呼ばれる部類に入るだろう慎は、受け答えもハキハキとした“爽やかな”営業マンだった。
まぁ、その好印象にすっかり騙されたわけなんだけど……。
「どうしてうちに来てんの? 担当地域、神奈川の方になったはずじゃ」
ちょうど別れるか別れないか微妙な頃、慎の営業で回る地域が変わることになった。
そのときすでに気まずい状態になっていたから、それを機に別れ話に発展して、それからは仕事でも顔を合わせることはなくなった。
それなのに、また仕事場で顔を合わせてしまうなんて、どんな運命の悪戯なんだろう。