冷徹ドクター 秘密の独占愛


「また担当地域が変わって、こっちの方を回ることになったんだ。塚田先生、亡くなったって聞いたけど、ここに移ったんだな」

「少し前にね……じゃ、注文よろしく」

「ちょっと待てよ」


書き途中のカルテを手に消毒室を出ようとすると、いきなり手を掴んで引き止められる。


「ちょっと!」


誰かに見られたらと焦り、慌てて掴まれた腕を振りほどいた。


「仕事中だよ?」

「じゃあ、外でまた会おう。千紗と話がしたいから」

「え? 私は話すことなんてないよ」


こっちの主張に耳を傾ける姿勢はなく、慎は手に持つ仕事用のファイルにホワイトボードの注文を書き留める。


「番号、変わってないよな? 連絡するから」

「だから、私は話すことなんて――」

「お願いします」


そんなとき、立ち塞がるようにして目の前に迫る慎の向こう、中に向かって声が掛けられた。

振り返る慎を目の端に、消毒室の入り口に立つ副院長が目に飛び込んでくる。

顎に掛けたマスクを口元に装着しながら、私に向かって「全顎スケーリング」と一言告げて立ち去っていった。


「はい! ……とにかく、話すこととかないから」


慎の立つ背後の引き出しを開けグローブを一組取り出し、逃げるように消毒室を後にした。


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