溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
入り口を入り、ドアマンに恭しく頭を下げられてやっぱり気後れしてしまう。新條はスーツにネクタイ着用なので問題ないとは思う。だが花梨は、シフォンのブラウスにサマーニットのカーディガンを羽織って、下は長めのフレアースカートに踵の低いサンダルと、かなりラフな格好をしている。
客先に出ることのない社員は、服装が自由なのだ。社内で歩くことすら稀な開発チームのメンバーや野口くんは、Tシャツにジーンズということもよくある。
そこまでラフではないものの、やはり高級ホテルには場違いな気がして花梨は尋ねた。
「ドレスコードとかないの?」
「観光客とかもいるから、そんなにうるさくはないよ。でも花梨が気になるなら着替える?」
結婚式やパーティの会場になることもあるホテルなので、貸衣装や美容院はあるだろう。でも……。
「こんな時間からできるの?」
「晩餐会とかあるし、夜もやってるよ。せっかくだからきれいにしてもらいなよ。頼んでくる」
そう言って新條は、花梨が口を挟む前にさっさとフロントに行く。少しして戻ってくると、新條は迷うことなくエレベータホールへ花梨を促した。
「やけにこのホテルに詳しいのね。いつも利用してるの?」
近くに家があるのに、こんな高級ホテル、いったい誰となんのために利用しているのだろう。下世話な妄想が脳裏をかすめて、なんだかモヤモヤする。
勘ぐる花梨に新條はサラリと秘密を明かした。
「そんなに利用はしてないけど、オレの親父がこのホテルの経営者だから」
「え……」
そうだろうなとは思っていたけど、何でもないことのように言われて、思わず絶句してしまう。気を取り直して確認してみた。
「やっぱり、御曹司だったの?」
「冷や飯食いの三男坊だから、経営には一切かかわってないし、好き勝手やらせてもらってたんだけどね」
冷や飯食いって、武家のお坊ちゃんか!
でも御曹司にはかわりないってことか。それは知らなかったこれまでも同じだったし、実際に本人の口から聞いても、花梨には今ひとつピンと来ていなかった。
新條に誘導されてエレベータで二階に上がる。そこにある美容室で女性に引き渡され、新條と別れた。