気まぐれな君は
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お邪魔します、と声を掛けながら家に足を踏み入れる。どうぞ、と笑いながら家の中に招いてくれた真白くんに、私は唐突にごめんね、と眉を下げた。
昨日決まって、今日。いくら真白くんからの提案とはいえ、お母さんの事情だってあるだろうし。と思っていると、真白くんから「母さんは今いないよ」と先回りした言葉を貰った。タイムセールのお時間のようである。
小さい頃母親に連れ出されたことを思い出しながら、そういえばそんな時間だということに気付く。真白くんの家は学校からそこまで遠くない、駅にして二駅分の距離にあった。
「俺の部屋行く?」
「……それはどうなんだ?」
「俺は別に構わないけど」
「お前じゃねえよ都築さんに決まってんだろ」
きょとんとして首を傾げている真白くんに苦笑。というか、家に来ている時点でその辺りも予想しているから、別に私も気にしていないのだけれど。
昨日の複雑そうな表情はなんだったのかと思う。この様子だと、昨日の俺のうちに、という提案も深い意味があったようには思えない。柳くんは気付いていたようだけれど、真白くんは気にしているようには思えないし。
「まあとりあえず、これ、一応お土産、というか」
「え、ありがとう! クッキー?」
「うん。あー……食事制限的なのはない? そういえば聞いてなかったから食べられなかったら申し訳ないんだけど」
「そこまで厳しいわけじゃないし、どちらかというと塩分の方。一枚とか二枚ならそこまで目くじら立てるほどじゃないよ」
それならよかった。
麦茶でいい? と訊いている傍らすでに用意し始めている真白くんに笑いながら肯定の返事を返す。呆れた視線の柳くんが勝手知った様子でお盆を出してくると、さりげなく三つのコップと私の持ってきたクッキーを持った。さりげなさすぎて違和感もなかったし、真白くんも気にしている様子がなかったから二人の付き合いの長さを思わせる。
そんなところのぽっと出の私が入ってしまっていいのかなあ、と今更ながらに思ってしまった。
昨日、自分なりに病気については調べてみた。小児の、と言っていたからそれで調べてみたんだけど、出て来た情報は少なかったし、私には正直難しいことはよく分からなかった。
拘束型心筋症。心臓が硬くなって上手く広がらなくなってしまう病気で、特発性と二次性がある。ただ真白くんの場合は小児の拘束型心筋症で、遺伝という可能性もあるらしい。ただ、心筋症の中でも少ない拘束型心筋症は、詳しいことはほとんどよく分かっていない、と。