気まぐれな君は
「もしかして、真白なのか……?」
「……確かに真白くんだけど、」
「ま、しろって、お兄ちゃんそんなこと」
「ぼくは真白だよ。それで、真空だよ。……すばるおにいちゃんがつけてくれた、名前」
どういう、と無意識に問いかける言葉が唇から零れ落ちた。はっとして口を塞いで、一人息を呑む。
すばるおにいちゃんがつけてくれた、名前。昔、昴さんが飼っていたと言っていた、猫の名前。
でも。そんなことって。
「ぼくは、むかしすばるおにいちゃんとあいりに飼われていたねこの真空で、そのあとすばるおにいちゃんにまた拾われたねこの真白だよ」
────そんな、ことって。
真空の言っていることが、よく分からない。真空が、ねこ? すばるおにいちゃんとあいりに……昴さんとお母さんに飼われていた、ねこ?
しっかりと顔を上げた真空の表情に、嘘はない。そもそも真空は嘘が吐けない性格だ。そんな真空が、昔ねこだったなんて、そんなこと、……ある、のか。
「ほんとうに、真空なの……?」
お母さんの声が震えている。昴さんが真空を凝視している。
私は一人、入り口に突っ立ったまま動けない。一度泊まって動き始めた思考だけが、空回りしそうな勢いでぐるぐるとまわっている。
「真空だよ、あいり。すばるおにいちゃん。……ずっと、こうして名前を呼びたかったんだ」
雫、と名前を呼ばれる。私を見て優しく笑うと、真空が伸ばしてきた手を反射的に掴んだ。
そのまま引っ張られて、胸の中に閉じ込められる。一緒にいてほしい、と言った真空の声を思い出した。その顔を見上げると、頷いてきた真空に訳も分からずに頷き返した。
座ろうか、と穏やかにそう言った真空の声に促されて、各自が好きな場所に腰を下ろす。ソファに連れて行かれた私は、真空に抱え込むようにくっついた状態で座らされた。ぎこちなくだが全員座ったのを見て、真空が口火を切った。
「猫に九生、という言葉を知ってる?」
その問いに、私とお母さん、昴さんが頷く。戸惑ったままのおばさんに、真空が説明を挟んだ。