ヒステリックラバー
「えっと……」
私は左手で受話器を持って右手でマウスを動かした。武藤さんに言われた通りのフォルダに提案書のデータがあった。
「ありました! じゃあこれを送ります」
「本当にすみません……」
「いいえ、これくらいはお手伝いできますから」
「今度何かお礼でも」
「そんな、別にいいですよ」
珍しくお礼をすると言う武藤さんに笑ってしまった。2課の担当とはいえこれも営業事務の仕事なのだからフォローして当たり前だ。私だって他の社員に助けられながら仕事しているのだから。それに、武藤さんにお礼をされるのも怖い気がしてしまう。
「ではお疲れ様です」
「本当にありがとうございます。お疲れ様です」
武藤さんは電話を切る直前まで申し訳なさそうな声だった。私の方が後輩で年齢だってもちろん下なのに、いつもの態度からは信じられないくらい武藤さんは低姿勢だ。仕事はできるのにそれを自慢したり高圧的な態度もとらないから敵もいないのだろう。
電話を切ると武藤さんからすぐに私のパソコンにメールがきた。提案書を送る相手の担当者の名前とメールアドレスが記載されている。細かい気配りができることと仕事の早さも彼の魅力と言える。
指示されたファイルの日付が最新であることを確認して指示された宛先へ送ったところで営業の山本さんが帰ってきた。
「ごめんなー戸田、契約書もらってきたからこれだけコピーよろしくー」
長身の山本さんはデスクに座る私の前に書類の束を置くために屈んだ。
「かしこまりました」