ヒステリックラバー
「あの……今日は予定があるので……」
「じゃあいつならあいていますか?」
「えっと……」
社交辞令の割には思いのほか食らいついてくる。私はどう断ろうか迷う。
「昨日のことは本当に気にしないでください……」
「そうですか……ではまた機会がありましたら誘いますね」
「はい……え?」
遠回しの断りの言葉も気づいていないようだ。意外にも武藤さんは諦めない。
エレベーターの扉が開いたから二人で乗った。私は扉のすぐにボタンを押せる位置に立ったのに、武藤さんは私から距離を取ってエレベーターの奥への壁にぴたりと背中を寄せた。私に近づきたくないとでも言うように。
避けるような態度を断ったのに食事に誘ってくる意味が分からない。もう武藤さんの態度にいい加減疲れてきた。
「あの、武藤さんは私のこと嫌いですか?」
振り返り思い切って聞くと、武藤さんは目を見開いた。
「え……なぜです?」
質問に質問で返されてますます嫌悪感が湧く。
「武藤さんの私に対する態度で何か失礼なことをしてしまったのではないかと思ったので」
「いえ、そんなことはないです! 戸田さんにはいつも助けられてます!」
「………」
誤魔化すことに必死な気がして私はそれ以上武藤さんに聞くことをやめた。
黙って武藤さんに背を向けると武藤さんもそれっきり何も言わない。エレベーターが営業部のフロアで止まって扉が開くと、私は武藤さんを振り返らないで先に降りた。
やっぱりだめだ。武藤さんが苦手。
武藤さんの考えていることがわからなくて薄気味悪いとさえ思ってしまった。