ヒステリックラバー
「山本さんってば……」
私の口から思わず呆れた声が出た。盛り上げようとするのはいいけれどカラオケなんてこの場ではみんな歌いたがらないだろう。そう思いながら瓶ビールを持って田中さんと武藤さんのいるテーブルに戻った。
「ビールお待たせしました」
「ありがとうございます……」
武藤さんは空になったグラスをまた差し出した。
「武藤さん、お酒弱いって聞きましたよ。もう飲まない方がいいんじゃないですか?」
ビールを注ぐのは何杯目だろう。武藤さんは顔も腕も赤くて目がとろんとしている。仕事したあと旅館まで長時間電車を乗り継いで、疲れた体に大量のアルコールを入れたら酔うに決まっている。
「大丈夫ですか?」
「………」
武藤さんは私の顔を見るけれど焦点が合っていない。完全に酔っている。その表情は色っぽくもあった。
「誰もいませんかー」
ステージの前に立った山本さんがカラオケを促しても誰1人歌おうとする様子は見られない。
「仕方ないな。じゃあまずは俺が1曲」
山本さんは慣れた手つきでリモコンを操作するとステージに上がった。
「踊れる人は一緒に踊ってくださーい」
山本さんがそう言った直後に曲のイントロが流れ始めた。周りの社員が次々と歓声をあげていく。その曲は普段テレビを見ない私でも知っているドラマの主題歌だった曲だ。男性シンガーソングライターで、ミュージックビデオやドラマのエンディングのキャストのダンスが個性的だと話題になった。ドラマが終了した今でも根強い人気の曲だ。
山本さんが歌いながら踊る姿に宴会場は盛り上がった。その内別の男性社員がステージに上がり山本さんと一緒に踊り出すと、数人の酔った社員も次々とステージに上がって踊り始めた。