ヒステリックラバー
私が可愛かった、そういう意味だろうか。そう解釈するのはあまりにも自意識過剰だ。だから何も返す言葉が見つからない。
武藤さんにそんなことを言われるとは思わなかった。私の横に座る田中さんも首をかしげた。
「武藤さん酔ってます? よね……」
田中さんが身を乗り出して武藤さんの顔を覗きこんだ。
「言いたいことは言葉にしないと男はわかんないんですよ」
「え?」
唐突に武藤さんは訳のわからないことを言う。
「恋人に会えなくて寂しいと思っているならそれを言わないと」
私は驚いて固まった。武藤さんは気だるそうだけれど言葉自体ははっきりとしている。
「あの……それ私に言ってます?」
「気持ちをちゃんと伝えないと遅いときだってあるんです」
「武藤さん?」
武藤さんの顔が赤い。けれどまっすぐ私を見ている。先程までの焦点の合わない目付きとは全然違う。
「伝えてください、ちゃんと。彼氏に戸田さんがどう思っているのか」
「はい……」
力強い言葉に思わず頷いてしまった。武藤さんは私の返事に満足したのか下を向いて目を閉じた。
「意外です。武藤さんがそんなことを言うなんて……」
私の言葉に下を向いたまま武藤さんは目を開けた。
「あんまり話さない人なのかと思っていました」
浮いた話を聞かない武藤さんに正論を言われるとは予想外だ。武藤さんは恋人には気持ちをちゃんと伝える人なのだろうか。この人に好きだと囁かれたり、寂しいと甘えられたら喜ばない女性はいないだろう。
武藤さんは顔を上げたかと思うと突然立ち上がった。