ヒステリックラバー
驚いて声をかけると武藤さんは顔を上げた。その顔は宴会場で見たときと変わらず赤く、目がとろんとして口は半開きだ。あれから2時間近くたつのに武藤さんがまだ部屋に戻れないほど酔っているのだと瞬時に理解した。
「大丈夫ですか?」
「………」
私の顔をじっと見つめたまま返事をしない武藤さんは呼吸が荒い。普段物静かで穏やかな武藤さんと、酔って弱る今の武藤さんが結び付かなくて戸惑った。さすがにこの状況はまずい。
「お水飲みましょうか?」
そう言うと私はバッグから財布を出して目の前の自動販売機で水のペットボトルを買った。
「どうぞ」
武藤さんの顔の前にペットボトルを差し出すと「ありがとう……」と小さく言って水を飲んだ。
そのまま立ち上がって歩き出した武藤さんはフラフラとおぼつかない足取りで倒れそうな様子に不安になった。今の私は武藤さんに対する嫌悪よりもその不安の方が勝ってしまった。
「武藤さん、危ないので!」
そう言うと私は武藤さんの腕をつかんで自分の首の後ろに回し、武藤さんの体を支えた。武藤さんは意識が朦朧とするのか、私の突然の行動に何も言わずただ顔を見てくる。
今武藤さんが何を思っているのかはわからないけれど、私だって自分の行動に驚いている。
片方に武藤さんを、もう片方の手で自分のバッグを持って武藤さんを支えるのはかなり大変だ。