ヒステリックラバー
私も私だけど今日の武藤さんは何か変だ。宴会場で同じテーブルに座ったときから違和感はあった。あんなに会話をしたのも初めてならここまで距離が近づいたのも初めてだ。まさか武藤さんに自分から触れる日が来るとは思わなかった。でも具合の悪そうな武藤さんを廊下に放っておくことはできなくて体が先に動いてしまった。
「武藤さんの部屋はどこですか?」
「306です……」
肩に武藤さんの重みを感じながら306号室を探した。
「ありがとうございます……」
耳元で武藤さんが囁いた。私も小さく「いいえ」と呟いた。
「今日の武藤さんはいつもと違いますね。それとも、お酒を飲むとこうなるんですか?」
何気なく言った言葉に武藤さんは「すみません、ご迷惑かけて……」と言ったから慌てた。
「いいえ、迷惑とかじゃなくて……いつもよりたくさん話してくれるから」
さっきも正広に本音を伝えろと言ってくれた。
「この方がいいと思います。武藤さんと話すことがあまりなかったので、新鮮です」
これは私の正直な思いだった。
「武藤さんはもっと思ったこととか気持ちを出していただけると鈍感な私には助かります」
何を考えているのかわからない、本心を言ってくれないよりも今夜の武藤さんならまだ私も心を開ける。これから一緒に仕事をしていくのなら尚のこと。できれば以前から私を避ける理由も知りたい。そして食事に誘う理由も。でも今の具合の悪い武藤さんには聞くのを躊躇う。
「こんな僕でもいいんでしょうか……」