ヒステリックラバー
「んー! ん!」
胸を叩いても肩を抑えられているので力が入らない。武藤さんは私の下唇を舌でなぞる。その気持ち悪い感覚にゾクゾクした。恐怖よりもどんどん怒りが湧き上がる。武藤さんを叩く手の力が抜けてカバンを落とした。
ほんのわずかに唇が離れた瞬間を見計らい、手首を振って手に持ったペットボトルを武藤さんの顎にぶつけた。弱い力でも当たったことに驚いたのか私の体から手が離れ、その隙に思いっきり突き飛ばした。顎を手で押さえながら驚いた顔をする武藤さんの顔に間髪入れず手を勢いよく振り上げた。パチンと乾いた音と手のひらの痛みが私の意識をさらに覚醒させる。
「ふざけないで!」
武藤さんにそう吐き捨てると落ちたバッグを拾い後ろのドアを勢いよく開けて部屋を飛び出した。叩かれて驚いたのだろう武藤さんは私が逃げ出しても追いかけてきそうにはない。
背後で部屋のドアが閉まる直前にドスンという音を聞いたけれど、振り返らず廊下を走って自分の部屋に戻った。
同室の社員はまだ誰も戻ってきていないようだ。暗い部屋に入ると中居によって布団が敷かれ、足の力が抜けた私はその布団の上に座り込んだ。
肩も手も震えが止まらない。まさかあの武藤さんに強引にキスをされるとは思わなかった。
許せない許せない許せない……。
体は恐怖で震え、頭は怒りでいっぱいだ。武藤さんの唇に吸われた首と、重なった自分の唇が不快で浴衣の袖でゴシゴシと擦るとそれぞれ痺れて痛みを伴う。