ヒステリックラバー

なぜ武藤さんにこんな仕打ちをされなければいけない。酔って具合が悪そうなのを介抱しただけだ。何も悪いことをしていないのに。

「まさひろ……」

そう呟いてバッグからスマートフォンを出して正広に電話をかけた。数十秒のコールに正広が応答することはなく、留守番電話に切り替わってしまった。

「うっ……」

頬を止めどなく涙が伝う。辛いとき、苦しいときに恋人の声が聞けないことがより一層私を惨めにする。
キスをしたのはいつ以来だろう。それが恋人の正広ではないことが悔しくて悲しい。

武藤さんに話しかけなければよかった。近づかなければよかった。もう武藤さんには関わりたくない。一緒に働くことなんてできない。今のはセクハラだ。本当に許せない。訴える、絶対会社を辞めさせる!
理不尽な出来事をいかに会社に訴えて武藤さんに復讐するか、私は必死でその事だけを考え意識を失った。





翌朝、鏡で首の吸われたところを確認するとほんのり赤い気はするけれど目立たない。強く吸われなくてよかった。
集合場所である旅館の駐車場で武藤さんを見つけても目を合わさないようにし、その1日は武藤さんの視界に入らないよう隠れるので精一杯だった。
バスの車内では離れた席に座り、最終目的地の水族館に着いても具合が悪いからと嘘をついて私だけバスに残っていた。

私のことを気にしているのか、武藤さんの視線を感じるだけで吐き気を覚えるのだ。
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