ヒステリックラバー

襲われた証拠である私の首筋はもう何の痕跡もない。もっと必死で抵抗して武藤さんに傷でも残しておけばよかったか。噛みついて傷を残せば周りにも明らかに何かあったと分かってもらえたのに。
今なら色々と抵抗する方法はあったと思えるけれど、あの時は怖くて何も考えられなかった。

気持ち悪い。悔しい。
その内本当に具合が悪くなってきた。
もう嫌だ。絶対に武藤さんに関わらない。



◇◇◇◇◇



土日の社員旅行を終え月曜にはやる気がないと思われる社員が多かった。私もその1人で、出社した直後からあくびが出てしまうほどだ。
フロアのドアの横に置かれたタイムレコーダーに打刻すると武藤さんが出社してきた。

「おはようございます」

私に向かって笑顔で挨拶をする武藤さんに体が強張る。

「………」

自分の表情が武藤さんを見た瞬間劇的に曇ったであろうことは自覚しているけれど、何も言わずに武藤さんの横を抜けて自分のデスクに逃げた。そんな私に武藤さんはどう思ったかはわからない。

あのときのことを話さなければ。武藤さん本人と、上層部にも訴えるのだ。
顔を見るだけで、少しでも近づくだけで鳥肌が立つ。武藤さんにされた強引な態度の全てを鮮明に覚えていた。
それなのに武藤さんは何事もなかったように社員旅行を終え、いつもと変わらない態度で仕事をこなしている。腹が立って仕方がなく、武藤さんを見ると睨みつけて逃げることしかできない。そんな自分が悔しくて情けない。

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