ヒステリックラバー
「まさ……ひろ……」
ボタンが全て外され胸が開かれたと同時に床に押し倒された。薄いカーペットに組み敷かれて背中に軽い痛みを感じる。
「っ……ん……まさひろ……」
再び囁いた恋人の名前に精一杯の愛情を込めた。正広の感触で嫌な記憶を消してほしい。この身体は正広のものだと証明してほしい。愛されてるって実感できるように強く深く。
胸にキスされたと思うと、正広の動きがぴたりと止まった。
「ごめん……やっぱ無理だ」
「え?」
正広が私の上から退くとすぐ横に寝ころんだ。私はすぐに体を起こして正広の顔を覗き込んだ。
「どう……したの?」
「ごめん、勃たない……」
この言葉に理解が追いつかなかった。
「え……あっ」
状況が分かると「そうだよね、お酒いっぱい飲んでるしね」とフォローする。
最後までできないのは寂しい。でも正広が私を求めてくれたのも確かで、二人の関係は何も変わらないんだってことが確認できた気がする。
横の正広は気がつけば寝息を立てている。私の部屋で無防備に眠っている恋人が愛しくて、私は正広の体に毛布をかけた。
翌朝早くに目覚めた正広は私に申し訳なさそうな顔をして身支度をして出勤していった。何度も「ごめん」と言われたことが気になったけれど、私は「大丈夫」と理解している顔をした。
大丈夫。私たちはまだ大丈夫。
正広はこうして私に会いに来てくれた。たとえ体が反応してくれなくても、嬉しくて心が満たされた気になる。
◇◇◇◇◇
「じゃあ契約書を確認して、大丈夫なら先方に連絡しといて」
「かしこまりました!」
山本さんから書類の束を渡され私は機嫌よく満面の笑顔で承諾する。
「戸田さあ」
「はい」
「何かいいことあった?」
「え? どうしてですか?」
山本さんの不審な顔にも笑顔を崩さず聞き返す。
「最近の戸田は機嫌がいいから」
「ああ……」