ヒステリックラバー
「あ、お疲れ様です」
「……お疲れ様です」
武藤さんの挨拶に私は小さい声を出すのが精一杯だった。無理矢理キスされて以来武藤さんとはほとんど会話をしてこなかった。こうして給湯室で二人きりになることは恐怖でしかない。今すぐに出ていきたいけれどドアは武藤さんの体で塞がれている。
「………」
目を逸らし、下を向いて無言になる私を頭一つ分背の高い武藤さんも無言で見下ろしている。
「そうだ、そろそろ田中さんも交えて本格的に引き継ぎをしましょう」
「………」
「戸田さんはいつなら都合がいいですか?」
「………」
「山本くんは今忙しいから戸田さんも忙しいですか?」
「………」
何を聞かれても声が出ない。自分の手が小刻みに震えてきたのがわかった。目の前の武藤さんの存在が怖くて不快だった。
武藤さんは不審な態度に首を傾げながら手に持ったマグカップを私の前に差し出した。
「コーヒーでしたら僕の分もついでに砂糖を入れていただけますか?」
「ああ……はい」
武藤さんのカップを恐る恐る受け取るとスティックシュガーを入れてスプーンでかき混ぜた。
「ミルクは……入れますか?」
「大丈夫です」
自分のカップに砂糖を入れる私の横で武藤さんはじっと立っていた。以前から特に話す話題もなかった武藤さんと狭い給湯室にいることが気まずくて息苦しい。
「戸田さん、髪染めました?」
突然武藤さんが話しかけてきた。
「ああ、はい……昨日」
「その色、よく似合っています」
褒めてもらえるとは思わなくて顔を少しだけ上げた。武藤さんの顔を見ないように胸で視線を止めた。