ヒステリックラバー
「大丈夫ですか……?」
武藤さんの様子に思わず心配になって声をかけた。
「すみません……もう大丈夫です」
「武藤さん、髪乱れてます……」
「ああ、すみません」
慌てて手で髪を整える武藤さんは焦っている。仕事は完璧で自分を格好良く見せることに慣れていそうなのに、今の武藤さんはいつもと違う。
「なにかご用ですか?」
相変わらず私の武藤さんに対する声音は低い。その声に武藤さんも表情が暗くなる。
「あの、これ……」
武藤さんはカバンの中からラッピングされた袋を出した。
「ホワイトデーのプレゼントです」
「え……」
目の前に差し出されたのはピンクの布に赤いリボンがかけられた私の手のひらよりも少し大きい箱だ。
「渡すのが遅くなってすみません。最近タイミングがつかめなくて」
「わざわざありがとうございます……」
意外なプレゼントを恐る恐る受け取った。
「こちらこそ、バレンタインありがとうございました」
武藤さんは寒いからか更に頬を赤くして強張った笑顔を見せた。私はそんな武藤さんに笑顔を返すことができない。こうしてホワイトデーのお返しをもらったことにお礼は言うけれど、武藤さんには何も感謝はしていない。敵意すらある。
「では、お疲れ様で……」
「戸田さん」
「はい?」
帰ろうとする私を武藤さんは引き止めた。
「お願いします。戸田さんの正直な気持ちを聞かせてください」
武藤さんの顔は必死だ。私はその場から動けなくなった。