ヒステリックラバー
「僕は戸田さんに何をしてしまったのでしょうか?」
「………」
武藤さんが今も理由を知りたがっていることにうんざりした。私の口から言いたいことではないのに。
「しつこく食事に誘ったことがいけなかったでしょうか?」
私は首を振った。
「戸田さんに振った仕事が不満ですか?」
再度首を振った。完全な引継ぎ前で今は大した仕事は武藤さんから任されていない。
「ではどうしてでしょう? これから組んで仕事をしようというのに戸田さんとこんな関係では辛いです。理由があるなら今のうちに教えてください。このままでは僕は参ってしまいます。バレンタインをいただいたのにホワイトデーのお返しが遅いから怒っているのかとさえ思うようになってしま…」
「じゃあ言いますけど!」
武藤さんの言葉を遮って私は大きな声を出した。
「社員旅行のときのこと、謝罪してください」
「すみません……そのことは覚えがなくて……」
武藤さんは私の勢いに驚いている。
「酔った武藤さんを私が部屋まで連れて行ったことは?」
「え? そうなんですか? あの……全然」
「でしょうね」
冷たく吐き捨てる私に武藤さんはどんどん表情が暗くなる。睨みつける私に「すみません」と小さく呟いた。
「あ!」
武藤さんは何かを思い出したような声を出した。
「戸田さんと歩きながら話をしたことはわずかに覚えているんですけど……夢かと思っていました」
「歩きながら話をした、それだけですか?」
「山本くんに起こされるまで部屋の玄関で寝ていたみたいで……」