ヒステリックラバー
「それ以外は?」
「すみません……」
武藤さんは困っている。いつも完璧な武藤さんが困っていることをいい気味だとさえ思った。
「武藤さんは私に……私に……」
怒りで肩が震えてきたけれどそれ以上は言えなくなってしまった。
「戸田さんが僕を部屋まで……」
そう呟いた武藤さんははっと気づいたように目を見開き、私を凝視した。
「僕はもしかして……すみません!」
武藤さんは慌てて深く頭を下げた。私がその先を言わなくても何があったのかを武藤さんは察したようだ。
「僕は何てことを……本当にすみません!」
いったいどんなことがあったと想像しているのかはわからないけれど、腰を深く曲げて謝罪を繰り返す武藤さんは顔面蒼白で、心から申し訳ないと思っているようだ。
「僕はなんてことを……大変なことを……」
あまりにも武藤さんが青ざめるものだから、被害者と言えなくもない私は思わず口を開いた。
「あの、私に何をしたと思ってます?」
「僕は戸田さんを部屋に連れ込んでしまったのですよね?」
「まあ……そうと言えばそうなりますね」
「はぁ……」
武藤さんは深い溜め息をついた。繰り返し「すみません、すみません」と呟く。このままでは土下座をしそうな勢いで。
「あの、たぶん武藤さんの想像とは違います……」
「え?」
もっと最悪のことを想像していそうな武藤さんに私の方が慌て始める。
「強引でしたけど……怖かったですけど……武藤さんの思う最悪の状況ではなく……き……」
「き?」