ヒステリックラバー
「首に……」
「首に?」
私もうまく言えなくて歯がゆい。キスをされたのだと私から言うのも恥ずかしくて悔しい。けれどそれで理解したのだろう武藤さんは落ち込んだのか下を向いた。自分の足元を見ている武藤さんがどんな顔をしているかは見えないけれど、本当に反省しているように感じられる。
「誠に申し訳ありませんでした!」
私に向かって本当に土下座してしまいそうなほど深く謝る武藤さんの姿に通りすぎていく周りの人は好奇の目で見つめてくる。それに居心地の悪くなった私は必死な武藤さんを見て吹っ切れた。
「顔を上げてください」
「でも……」
「もういいですから」
詳細を覚えていない武藤さんをこれ以上責めてもお互い疲れるだけだ。
「それに、私も武藤さんに謝らないと」
「え?」
「あのとき武藤さんをひっぱたいちゃいました……すみません」
正当防衛とはいえ私も謝罪をしなければ。
「それは気にしないでください。僕への罰です。すみませんでした……」
何度も私に向かって謝る武藤さんの姿に笑った。ずっと怒りで疲れていたけれど、心が軽くなり久しぶりに笑えた気がした。私も怪我をさせたわけだし、このままお互い何もなかったことにしてもいいかと思い始めた。私の笑顔を見て武藤さんもほっとしたのか同じく笑った。
「僕、戸田さんが好きです」
「え?」
思いがけない突然の言葉に耳を疑い、笑顔のまま固まった。
「あ、いや、その……」
武藤さんも自分自身の発言に驚いたのか口に手を当て再び焦り出した。