ヒステリックラバー

「酔っていて覚えていないのは申し訳ないのですけど、だからこそ戸田さんに失礼なことをしてしまったのだと思います……」

「どういうことですか?」

「僕はずっと戸田さんが好きでした」

「はあ……そうですか……」

口からは間抜けな音しか出てこない。

「食事に誘ってくれていたのはそういうことですか?」

「はい」

武藤さんは自棄になったのか勢いを増して話しだした。

「さり気なく気遣いができるところとか、他の課の仕事もフォローしてくれる姿勢とか、もっとありますけど……素敵だなって思っていて……」

「…………」

「気づいたら好きでした。戸田さんのことが」

もう何も言えなくなってしまった。これまでの武藤さんとのやり取り全てが後ろめたい。私を好きになってくれた気持ちは嬉しい。でも突然のことでその想いを受け止めることができない。
私を好きだから酔った無意識のときにキスをしたなんて滅茶苦茶だ。だって今までは避けていたじゃないか。あの態度からこの展開には頭がついていかない。

「私……武藤さんに嫌われているとばかり思ってました。ずっと無視されてきたので……」

少なくとも数ヶ月悩んできた。挨拶もしてくれない、目も合わせてくれない。気分がいいものではなかった。

「気持ちを伝えた今だから正直に言います。それは自分の気持ちを戸田さんに知られたくなかったからです」

武藤さんはまた困ったような複雑な顔で私を見返す。

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