ヒステリックラバー
「すみません、私武藤さんとはお付き合いできませんし、彼氏とも別れるつもりがありません……」
そう言った瞬間武藤さんはまた笑った。
「はい、それでいいんです」
明るく言う声は私の返事を本当に気にしていないようだ。想いを告げられた私が落ち込んで、振られた武藤さんの方が笑顔だ。
「僕が好きでいる分には構いませんか?」
「え?」
「戸田さんに恋人がいたら僕は戸田さんを好きな気持ちを消した方がいいですか?」
「それは……」
答えることができず下を向いた。自分を好きになってくれた気持ちは嬉しい。応えられないのが申し訳ないほどに。
「いいです……」
「どっちのいいですか? 好きでいてもいいのか、だめなのか」
「こ、こんな私でよければ……」
思わず了承する言葉が出た。すると「ありがとうございます」と武藤さんは嬉しそうに言った。その顔は晴々としていて、数分前まで落ち込んでいた男とは別人のようだ。
彼氏がいる人を好きでい続けていいのだろうか。私から私を諦めてなんて厚かましいことは言えない。でも武藤さんは気持ちが一方通行のままで辛くはないのか。
「ホワイトデーのそのプレゼントはもらってください」
「はい……」
気まずいと感じていた武藤さんとの今後の関係は今までよりはましになった。けれど自分を振った相手と仕事をするのは武藤さんは気にならないのだろうか。
「じゃあお気をつけて」
「はい。お疲れ様でした……」
「お疲れ様でした」