ヒステリックラバー

「大丈夫? 何かあった?」

電話を切った後輩を心配して声をかけると顔がますます不安そうになった。

「美優さん……武藤さんの顧客から至急データを送り直してほしいって言われたんですけど、どのことかわかります?」

「え? 至急?」

ホワイトボードを見ると昼過ぎに外出した武藤さんは直帰になっている。武藤さんの企画の多くを担当している営業事務の田中さんもさっき帰ってしまった。私には武藤さんの企画のデータなどさっぱりわからない。

「わからないな……武藤さんか田中さんに聞かないと」

「そうですよね……」

後輩は困ったように言うと壁掛け時計を見た。既に定時は過ぎていて、後輩は今帰り支度をしているところだった。
一年目の新入社員である彼女に任せるのも申し訳ないし不安なので私が引き継ごうと思った。

「私聞いてやっとくよ。まだ山本さん戻らないから帰れなかったし」

「いいんですか?」

「いいよ」

「ありがとうございます!」

何度もお礼を言う後輩を笑顔で帰らせて田中さんの携帯に電話をかけたけれど、何度コールしても繋がらない。営業1課の私は営業2課長の武藤さんの仕事は把握していない。嫌だけれど仕方なく今度は武藤さんの携帯に電話をかけた。

「はい、武藤です」

武藤さんは数秒のコールですぐに繋がった。

「あ、お疲れ様です、1課の戸田です」

「……戸田さん?」

「はい、今電話大丈夫ですか?」

「ああ、はい……」

武藤さんは私が電話を掛けてきたことに驚いているようだけど、今は事情を深く伝えている余裕がない。

「武藤さんの担当顧客で田中さんが先週提出された商業ビルのオープニングセレモニーの提案書ですが、今連絡があって2回目の提案書をもう1度送ってほしいそうです」

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