君に捧ぐは、王冠を賭けた愛。
「まったく。
こういうゴタゴタの処理は俺の仕事じゃないんですけどね。

…って、神楽弥?」

神楽弥が立っていた場所に戻るが、そこには誰もいなかった。

焦って辺りを見回すけど、神楽弥の姿はどこにもない。

あっ…。

地面の一ヶ所に目がとまった。

その場にしゃがみ、落ちているものを拾い上げる。

「嘘だろ…」

それはリンタール城の身分証。
石盤には、“リンタールの歌姫”とある。

頭が真っ白になる。
信じたくない。

俺のせいだ。
俺が付いていながら。

王国内で不穏な動きがあることを神楽弥には伝えてなかった。
余計な心配をさせるよりは、俺が目を光らせておけばいいと思ったから。

でも、ちゃんと伝えておけばこんなことにならなかったかも…。

ドン。

地面を力一杯殴る。
誰だよ、こんなふざけた真似したのは。

今まで経験したことのないほどの怒りがこみ上げてくる。

ここでしゃがみこむのが俺のやるべきことじゃない。

急いで近くにいた兵士にカナトへの伝言を紙に書いて渡す。

あの短時間で神楽弥の身に何かが起こった。
だとしたら、まだ近くにいるはず。

動揺から気持ちを切り替えて走り出す。

絶対に見つけ出す。
見つけ出して、こんなふざけた真似したことを後悔させてやる。
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