君に捧ぐは、王冠を賭けた愛。
押さえつけられた腕がひやりと冷たい。

「全部お前のせいだ。

何者だ?」

こんな状況でそんなこと聞かれても答えられない。

「まぁ、どうでもいい。

お前にはドルツ王国で働いてもらう。
まずはその口の利き方から正してやるとするか」

なんで、そんなに楽しそうなの?

不気味な笑顔が、私の中に不協和を起こす。

「それよりも前に、助けに来てくれます」

「はっ。
かもな。

あの王子も、お前にはまだ利用価値があると踏んでいたし」

利用価値?

「カナトはそういうふうに人のことを見てません」

「じゃ、どうしてお前にかまう?

あの夜だって、どこぞの姫と消えてたじゃないか。
言い訳でもされたか?
都合よく、お前が一番だとでも言われたか?

全てはリンタールの為に、だろ?」

「だから、それは、計算とかじゃなくて、もっと純粋に…」

マリア姫とは何も無かった、はず。
いや、この人の言うことに耳を貸してはいけない。
カナトは、嘘なんてついてない。

「純粋?
そう見せておけば、秘密なんてものはバレないからな。
あの王子が、何の秘密もないと言い切れるのか?」

「ちが…」

そこではっきりと否定できなかった。

頭の隅に、引き出しに慌てて隠しものをするカナトの後ろ姿がよみがえってきたから。
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