寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない



 誰にも聞かれる事のない小さな声に、セレナは顔だけでなく体中が赤くなった。
 ちょうど、後ろに長く引くドレスの裾を整えようと、侍女が足元にしゃがみ込んでいて、テオの言葉を聞かれたのではないかとドキドキする。

「で、殿下。しばらく黙っていてください」
 
セレナはテオに向かって早口でそう言った。
 もともと自由気ままで自分の想いに素直に生きているが、ここ最近のテオはセレナに対して直球で攻めてくる。
 セレナが何を言っても笑って聞き流し、結局自分のしたいように進めるのだ。
 
バルコニーでの挨拶も、本来なら結婚式を終えた後、まずは列席した周辺各国の王族たちそれぞれにお礼の言葉を直接述べてから行うのが習わしだというのに。

『晩餐会でお礼はたっぷり言ってやるから、式の後まずは手を振って、しばらく部屋で休憩だ』

 それ以外、受け付けないとでもいうような強気な言葉を聞いて、セレナは耳を疑った。
テオは結婚式の日取りを決める時にも「一日でも早く」と言って、周囲を困らせていた。
 それまでの婚約を破棄し、セレナとの結婚を即座に決めただけでも国民たちの動揺を生み、反対する諸侯たちを説得する時間も必要だったが、テオは一年しか待たないと言い張った。
 一番の問題はミノワスターの王太子が変わった事で、国の将来を憂う者も少なからずいたが、それと引き換えにランナケルドの川から続く水路を作るとなれば、反対する者たちもおとなしくなった。
 慢性的な水不足に悩んでいたミノワスターにとって、願ってもない条件だったのだ。
 賢王になるに違いないといわれているカルロがランナケルドの王配となるのは残念だが、今は亡き前妃の忘れ形見であり、現妃やテオとの間に微妙な距離を作っているカルロにとっては、ランナケルドでその辣腕ぶりを発揮したほうがいいのかもしれない。
 そして、なんでもそつなくこなすカルロのことだ、隣国に行っても幸せになれるだろう。
 国民の多くはそう考えている。

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